「なんと身勝手な……
おまえはあの者のことを格別に気に入っているのはわかっておるが、まだ幼い子供の頃から巫女に定め、さらにはずっと巫女でいさせようと考えておったな…それはあまりに酷いのではないか?」

「め、滅相もございません。
私にはあの男がじきに死ぬこともわかっておりました故、それで反対したのです。
あの男と一緒になっても幸せにはなれぬ…と、私は巫女に警告しました。
ところが、巫女は私のその忠告を聞き入れなかった。」

「まさか、死ぬとは思わなかったのだろうな。
それに、若い人間の情熱というものはとかくそういうものだ。
……時に、セルフィナ……先頃、あの巫女がここを訪れた折り、久し振りにあの者の歌と舞を見たのであろう?
愉しめたか?」

セルフィナは、眉をひそめ小さく首を振る。



「……少しも愉しめませんでした。
昔とはまるで違う。
あの者はここを離れ、世俗にまみれるうちに以前のような…」

「馬鹿者!!」

「……主様…?」

セルティナは、老人の出した大きな声に目を丸くした。



「おまえは本当に何もわかっておらぬのだな。
……あの者がここに来て、どんな想いをしたと想う?
その前に、息子のことがあった。
息子の異変が起こった時に、あの者はそれを自分の冒した過ちのせいだと感じた筈だ。
自分自身を責め、思い悩んだ筈だ。
そして、その傷が癒えぬままここに来て、この現状を目にした。
……あの者の心にもはや光りはない。
悲しみや苦しみ、罪悪感、不安、後悔…そんなもので埋め尽くされた心を抱えている者の舞いが愉しいものではないのは当然ではないか……」

「……そ、そんな……」

セルフィナは拳を握り締め、そのままがっくりと肩を落とした。