「異世界ファンタジーで15+1のお題」五

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「セルフィナ……胸は痛まぬか?」

「主様!」



祭壇や舞台をゆっくりと見て回るシンファの姿を見つめていたセルフィナは、不意にかけられた声に飛びあがらんばかりに驚いた。
セルフィナとは逆に、老人は冷静な表情を崩さなかった。



「……やり過ぎだったとは思わぬか?」

「し、しかし、主様……あの者の母親は掟を破り……」

「セルフィナよ……そもそも、その掟自体、おまえ達が人間達に押しつけたものではなかったか?」

「ですが、私達はこの場所を解放してやったのですぞ。
本来ならば、私達の憩いの場所であったこの場所に勝手に住みついたのは人間の方なのです。」

憤りを顕わに、セルフィナは反論した。



「良い者達ばかりではなかったか。
勤勉で、わしらに対する尊敬の念も厚かった。
ここには争い事もなく、皆が互いのことを思いやり、年長の者を敬い、子供を大切にして皆が幸せに暮らしておった。
あの祭壇にもいつも新鮮な作物や美しい花が供えられておったな。
……それが今ではあの有様だ。
供えようにもここには花はない、作物は貧弱なものがほんのわずか実るだけ……良いか?ここをそんな場所にしたのはおまえなのだぞ。」

セルフィナは、その言葉に言い返すことが出来ず、唇を噛み締めてそっと俯いた。



「……確かに少々やり過ぎたとは思っています。
ですが……そうすれば、あの巫女がまたここに戻って来るのではないかと……そう思ったのです。」

躊躇いがちに返された言葉に、老人は苦笑する。



「おまえはまだ人間のことがわかっておらぬようだな。
あの者は誰にも行き先を告げずにここを出た。
そんな者の居場所を探し出すことは、人間にはなかなか出来ることではない。
つまり、村人達はここのことを知らせたくとも、巫女の居場所がわからず知らせられなかったのだ。
だから、あの巫女がここに戻って来た時には酷く驚いていただろう?」

「そんな……人間にはそんなことすら出来ないのですか?
わ…私はただあの巫女に戻ってきてほしくて…
あの歌や舞いをもう一度見たくて…だから……」

白い髭を長く伸ばした老人は、そんなセルフィナに小さな溜め息を漏らす。