「本当におまえは変わった奴だなぁ…」

「良く言われるよ。」



申し訳程度に野菜の浮かんだスープ、そしてただ炒めただけの野菜…
だけど、僕にはとても美味しく感じられた。
なによりも、食卓を囲んだ皆が笑顔だということが、最高のご馳走だ。



ひさしぶりに感じる安心感…
ここにいれば、誰からも酷い仕打ちを受けることはない。
そうわかっているから、心の底から安堵出来た。



「しかし、私にはまだどうにも信じられんなぁ…
空を飛べる人間なんて……」

「そうだよな。
第一、アズロには翼がないじゃないか。」

「翼がないから飛べないなんて、そんなの君達の思い込みだよ。
そんなものに縛られてるから、君達は飛べないんだよ、きっと。」

「無茶を言うなよ。
だいたい、昔から決まってるんだ。
空を飛ぶものには翼があるって。」

アズロは、初対面のガーランドさんやライアンにも少しも臆することなく、会話を楽しんでいた。



「でも、本当なんだよ。
僕も、アズロに掴まって空を飛んで来たんだ。」

「なんだって!おまえも空を……!?
ど、どんな感じなんだ?
空から見た地上って……」

アズロが空を飛べるってことを信じられないと言っていながら、ライアンは僕の話に身を乗り出した。



「空から見た地上はね……」



話しかけたその時……僕の脳裏にアズロの言葉がよみがえった。



『……ねぇ、まるで違う場所みたいじゃない?
同じものでも、見る場所を変えると違って見えるものだよね。
今まで見えなかったものが見えたり、気付かなかったことに気付いたりするんだ。』



僕はようやく気付いた。
……アズロには、きっとわかってたんだ。
村の人達が僕を追い出したのには、きっと事情があるってことに…




「アズロ……君って人は……」

「なに?
僕、またなにかおかしなことでも言った?」

無邪気な笑顔…
まるで子供のような屈託のない態度…
でも…違う……
彼は…本当の彼は、成熟した大人だ。
智恵と優しさを持った賢人なんだ。



「アズロ…本当にありがとう。」

「え!?なんで?」

「うん…君と出会えて良かったなって……」

丸い目をして小首を傾げるアズロの背中に、僕は白くて大きな翼を見たような気がした。