「シンファーーーー!」

「え…?
シンファ…知りあいなの?」



僕達に向かってまっしぐらに走って来る若い男を僕は知っていた。
……以前、僕が兄のように慕っていたライアンだ。



「シンファ!!」



近付いてきたライアンの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
彼は、僕に向かって抱き着くように走り寄り…
そして、無様な格好で前のめりに倒れ、派手な土埃を舞い上げた。



「だ、大丈夫ですか?」

「あ…大丈夫だ。」

立ち上がろうとしたライアンは顔を歪め、茶色くなったズボンの下から赤い血が滲み出ていた。



「……ちょっと会わない間に、もう忘れたの?
僕の身体は空気みたいなものだってこと……」

怪我をした彼を労わることもなく、僕の口から飛び出たのは皮肉な口調。



「……俺、馬鹿だからな…
おまえの顔見たら、そんなことすっかり忘れちまってた。
でも……良かった。
本当に良かった……」

ライアンはそう言って、涙を流し始めた。



良かっただって…?
何が良かったっていうんだ。
僕に何か用でもあったんだろうか?
あんな酷い目に遭わせたくせに、なにを今更……



僕は、ついさっき、ライアンに無性に会いたいと感じてたはずなのに、いざ、ライアンの顔を目にすると、募るのは激しい憎しみだけだった。
さっきは、僕の命がもうすぐ消えると思ったから、その感傷に浸っておかしなことを考えてしまっていただけだったんだと気が付いた。
でも、本当はこいつらに感じているのは憎しみだけだ。
当然のことだ。
奴らは、僕の信頼を裏切り、僕を村から追い出したんだから…



「……とにかく、ガーランドさんの所に行こう。
シンファ、腹減ってるんじゃないか?
たいしたものはないが、すぐに食べるものを用意するからな。」

歩き出した途端、ライアンはまた顔を歪め、低い唸り声を漏らした。



「僕の肩に掴まって下さい。」

「このくらい大丈夫だよ。」

「まぁ、そう言わずに…」

アズロがライアンの腕を取り、肩を貸してライアンの身体を支えた。



(……大袈裟な……)

ライアンのそんな姿を嘲笑いながら、僕は彼らの後ろを歩いて行った。