「おはよう!」



呆然とみつめる僕に、「人」は、明るい声で挨拶をした。
木々の葉の色を映したかのような緑色の瞳はきらきらと輝き、その笑顔はあどけない少年のようだった。
なのに、不思議と落ちついた…貫禄のようなものが感じられることがどうにも奇妙だ。
そもそも、「人」が空を飛ぶということ自体が、酷く奇妙なことなのだけど…



「お…おはよう…」

「こんな所で何を…?」

「何って……」

「あぁ、失礼。
僕はアズロ。
……ちょっと迷子になったみたいなんだ。
ここは一体どこ?」



迷子という言葉に僕は違和感を感じた。
到底、鳥には見えない…翼さえも持たない人が空を飛び、そして、その人が迷子になったと真顔で言う…



思わず失笑してしまった僕に、アズロは小首を傾げた。



「僕、なにかおかしなこと言った?」

「いや…そういうわけじゃ…
でも、君は一体何者なんだい?
どうして、空を飛ぶ事が出来るの?
それとも、僕は幻を見てるんだろうか?」

「僕はさっきも言った通り、アズロ。
今までいろんな名前を使ってきたけど、アズロは本名だよ。
それに、僕は幻でもなんでもない。
ほら……」

彼は、屈託のない笑みを浮かべながら、僕に片手を差し出した。
僕は、その手に反射的に身を引き、その途端、彼の表情が怪訝なものに変わった。



「……どうかしたの?」



「ごめん…
……馬鹿だね…幻なのは君じゃなくて僕の方なのに…」

「……どういうこと?」



いつもの僕ならきっと、そのまま何も言わず彼の元から離れただろう。
そうしなかったのは、彼が不思議な「人」だったせいなのか…?



答えの代わりに、僕はそっと片手を差し出した。