「ごめんね…
僕、さっきは気が緩んで……」

「やっぱり、相手に触れることは相当集中力がいることなの?」

「うん…そうだね。
それに、今までは長い間誰かを掴んでるってことがなかったから。」

ひとしきり笑った後で、僕達はその場に座りこんで、さっきの話をしていた。



「そうか…じゃあ、これからは少し飛んで、一休みしていくことにしよう。」

「……そうだね。」

正直言って、もう空を飛ぶのはいやだった。
だけど、それは言いにくかった。
僕のプライドが邪魔をしたのと、そして、アズロに悪いと思ったから。



「あと二つだよ。」

「……二つって何が?」

「山だよ。
もう二つは越えたから、あと二つ。
あ、まだこの山は越えてないから二つ半って所かな?」

「ここはもう二つ目の山なの!?」

「そうだよ、気付かなかった?
二つの山はくっついてるから、ちょっとわかりにくいけどね。」



信じられなかった。
丸一日歩いたって、山一つ越えられるかどうかわからないのに、たったあれだけで山を二つも越えたなんて…



「じゃあ……もしかしたら、明日にはあそこへ着くの?」

「確か、この山の麓から少し歩いて、それから二つ目の山の中なんだよね?
だったら十分着けると思うよ。」

「……そう…」



アズロの話を聞いて、僕は急に怖くなった。



だって…
母さんの故郷に着くってことは……
僕の命が終わるってことなんだから……



「さて…じゃあ、そろそろでかけようか。」

「うん…そうだね。」



重い気持ちを悟られないように、僕は無理に微笑んで頷いた。
だけど、やっぱり僕はすぐには母さんの故郷には行く気にはなれず…
僕は、たまには宿に泊まりたいと言って、麓の村で荷物運びの仕事をさせてもらった。
アズロもいやがらずに一緒に働いてくれて、僕達はそのお金で、その晩、ひさしぶりに宿に泊まる事が出来た。