「シンファ…目を閉じてごらんよ。
風を感じてごらん…」



(風を感じる……)



アズロの背中で、僕は目を閉じた。
違う…地上のものとは確かに違う風の流れが僕とアズロの髪をからかうようになびかせて…
……まるで、鳥になったような気分だった。
この風は僕を受け入れてくれている…
地上の人々のように、僕を毛嫌いしたりしない。
あぁ…僕はこのまま鳥になりたい…!
鳥になって、大きな翼を広げ、この広い空を……



「あっ!!」

「危ないっ!」



不意に僕の下にあったアズロの温もりが消え失せ、僕はどんどん近付いて来る山に恐怖を感じた。
僕は死ぬ…このまま固い地面に叩き付けられて、僕は……



「シンファ!僕を掴んで!」

反射的に僕の腕が動き、僕の真下に回りこんでくれたアズロの身体を抱き締めた。



「一旦、下に降りるからそのままでいてね…
大丈夫だからね。」

何も言えなかった。
身体が震え、歯の根が合わない程がたがたと震えて、言葉を発することは出来なかった。
ただ、必死にアズロの首を抱き締めて、僕は堅く目を閉じた……



「着いたよ。」

苦しげなアズロの声が聞こえたのと、僕の足が地面を感じたのは同時だった。



「あ…あぁ……」

腰が抜けて僕はその場にへたりこむ。
アズロは何度か咳をして……



「君に殺される所だった…」



(えっ……?)



それは、僕が彼の首をきつく締め付けていたからだということに気付くのにしばらくかかった。




「あ……ご、ごめん!
ぼ、僕……」

「冗談だよ。
……って、冗談でもないか。」

アズロの笑顔に、混乱していた僕はまたしばらく考えて…



不意におかしさが込み上げて、僕は声をあげて笑った。
最初はきょとんとしていたアズロも、そのうちに僕につられて同じように笑い出して…

山の中に、僕達のにぎやかな笑い声がこだました。