「う~ん…今日も気持ちの良い朝だね。」

結局、あれからも僕は何も聞けなかった。
アズロの態度は本当に少しも変わることがなくて、昨夜も、この世界の気候のことやら、ごく他愛のないことを話しただけだった。



「じゃあ、行こうか…」

朝食を食べたら缶詰がなくなった。
お金も残り少ない。
母さんの故郷へは近くなったとはいえ、まだきっと数日はかかるだろう。
ここから先は、木の実や野草でも食べておくしかない。
……でも、母さんの故郷には一人しか住んでないようだし、僕達に施しをしてくれるかどうか…
そもそも、馬鹿馬鹿しいことだ。
僕は、死のうと考えているのに、食べるもののことを考えるなんて……



(あ……)



「アズロ…君、この先も僕についてくるつもりなの?」

「うん。」

「……あの…僕、昨日話したよね。
僕が母さんの故郷で何をするつもりなのか……」

アズロは、直接なにかを答えることはなく、ただ微笑むだけだった。
彼が何を考えているのかわからないことに、僕は苛立ちを感じた。
少なくとも死ぬと言ってる人間を前にして笑う者はいないと思う。
笑うと言う事は、僕の話を信用していない…僕にそんなことが出来ると思っていないか、もしくは……知り合ったばかりの僕がどうなろうが、そんなことは関係ないと……

いや、それなら着いて行くとは言わないだろう。
やはりアズロは、僕がそんなことをするとは思っていないんだ。
きっと、その場になったら僕には死ぬ勇気なんてなくて気持ちを覆すだろうって思われてるんだ…



いやな気分だった…
僕は、彼にみくびられている…
馬鹿にされている…



「シンファ、空を飛んだ事、ある?」

「……なんだって!?」



僕のこんな気持ちには少しも気付かないように、アズロは明るい声で、しかも、突拍子もないことを口にした。



「だから、空だよ、空!」

そう言って、アズロは頭の上を指差した。