「シンファ……君は確かあてのない旅をしてるって言ったよね。
お母さんの故郷に行ってみようとは思わなかったの?」

「……バレたか。
実は、僕は今、母さんの故郷に向かっている。
でも、最初は行くつもりなんてなかったんだ。
だから、わざと違う方角へ向かった。
そして、行く先々で僕は辛い想いをした。
僕の身体のことを悟られないようにとあれこれ工夫もしたけれど、結局はどこでもバレてしまう。
そして、追い出される…
悔しいけど、母さんの言う通りだった。
僕はどこに行っても受け入れてはもらえない。
僕が安心して住める場所なんて、この世にはどこにもないんだ…
そのことが身に染みてわかったから……
実はね……僕は母さんの村に行って……そこで死んでやろうと思ってたんだ。
そして、本当のゴーストになって一生皆を呪ってやろうって……」

「シンファ……」

「……僕のことが嫌いになった?
当然だよね…こんな奴、誰だって嫌いになるよね。
僕はきっと……神様にも嫌われてたんだね。
だから、こんな……」



話しているうちに、僕はたまらない気持ちになっていた。
最悪なことを話してしまった。
人を恨んで、そのあてつけに死のうとしてるなんて打ち明けられて、不快にならない者なんていない。
でも……不思議なことに、アズロは僕に説教地味たことを言うこともなく、僕から離れることもなかった。
ただ、黙りこんではいたけど、変わらず、僕と歩調を合わせて歩いてくれて……



「……ねぇ、シンファ…
お母さんの故郷はここから遠いの?」

「そうだね…もうずいぶん近付いてるとは思うんだけど、これから先はもっと険しい道になると思うよ。
なんたってすごい山の中みたいだから。」

「そう…方角とかはわかってるの?」

「まぁね…行ったことはないけど、母さんから故郷の話はよく聞いたから。」

「そう…じゃあ、大丈夫だね。」



彼は、さっきの僕の言葉をどう感じたのだろう?
沈黙の後のアズロの態度は、少しも変わったところはなかった。
無理をしている様子もない。

訊ねたい気はあった。
「僕のことを嫌いになったか?」と。
彼はその質問に、何も答えてくれなかったのだから。
でも、もしかしたら僕から離れないということが彼の答えなのか?



二人でいると、時の経つのがとても早く感じた。
僕達は早くもまた次の山に登り始め、気がつくとあたりは闇に包まれていて、僕達はその山で夜を過ごすことになった。