「シンファ……どうかしたの?」

「え…?
あ…あぁ…ごめん。
……昔のこと、思い出してたんだ。」

「そう……」

「あ、それでね…」



僕は、今、思い出していた母さんの話をアズロに話した。




「へぇ…そんなことがあったの?
それで、お母さんがどうして故郷に戻ってたかはわかったの?」

「いいや…結局、わからず仕舞いだよ。
母さんは、故郷の場所や思い出についてはあれこれ話してくれたけど、どうして急に故郷に戻ったのかも、どうして故郷を出たのかも教えてはくれなかった。
でもね、戻って来てからの母さんはまた元に戻ったっていうか…
家にひきこもるようなこともなくなったし、仕事もするようになったんだ。
だから、僕はもうそれで良いかって…そう思って、無理に訊ねることはやめたんだ。」

「そう…きっと、何か理由はあったんだろうけど…
君がそう思うのなら、それで良いんだよ、きっと。
でも、それじゃ、君達はその後もうまくいってたってことでしょう?
だったら……」

アズロの訊きたいことは当然だ。



そう…あの頃までは何事もなかったんだ。
僕の身体はこんなだけど……でも、母さんを抱き締めたあの時をきっかけに、少しずつ自分の意志で相手を触れられるようにもなってたし、ライアンや母さんもそのことをとても喜んでくれて…
きっと、そのうち、皆も僕の身体をすり抜けなくなるんじゃないかって…そんなことを言って僕を勇気付けてくれた。
本当にそうなれるかどうかは別にしても、僕は、そのまま平和な暮らしがずっと続くと思ってたた。



(だけど…そうじゃなかった。)