(神様……
どうか、母さんが無事でいますように…
ここに戻って来たくないのならそれでも良い。
どこにいたって良いんだ。
だから、どうか…どうか、母さんが無事でいますように……)



僕は毎晩空に向かって両手を合わせた。
母さんが出て行った時に気付けなかった自分自身をずっと僕は悔やみ続けていた。

もしも、目が覚めてすぐに追いかけていたら……
前日の晩、もっと母さんと話し合うことが出来ていたら…
僕はそんなことばかりを考え、後悔や寂しさや不安に押しつぶされそうな日々を過ごしていた。
星の瞬く空を見上げると、ついつい感情が込み上げて涙が零れ落ちそうになった。



「大丈夫だよ。」

「お母さんはきっと戻って来るよ。」

「信じて待とうよ。」



村の人達はそんな風に僕を励まし、慰めてくれたけど…
それでも、僕の心は日が経つごとに沈んでいった。



そしていつしか…母さんはもう帰って来ないかもしれない…
僕は、そんな風に考え始めるようになっていた。



母さんは、きっと僕のことがいやになったんだ…
被害妄想にも似たそんな想いに、ついに僕の瞳からは涙がこぼれ落ちた。



(そうだよ…
こんな気味の悪い息子なんて、いらないよね…)



「シンファ…」



母さんの声が聞こえたような気がして僕は振り向いた。
だけど、そこには誰もいない。
僕は、幻聴を感じる程、心を病んでしまったのか…そう思い、向き直って、僕はまた空を見上げた。



「シンファ…!」



今度はさっきよりもはっきり聞こえた。
うんざりしながら振り返ると、そこには母さんの姿があった。



「か…あ、さん……?
それとも……」

「シンファ…心配かけてごめんなさいね!」

まだ、それが幻覚かもしれないという想いはあったけど、僕はそれに駆け寄りその身体を抱き締めた。
温かい…そして、柔らかくて懐かしいにおい…
それが、幻覚ではないことを僕は実感した。



「シンファ…!」



僕は母さんの身体を抱き締めていた。
今まで、物以外は何も掴めなかったのに…
ただ、母さんの方からは変わらず僕を抱き締めることは出来なかったけど、それでもこのことは僕にはまるで奇蹟のように想えた。



「母さん…お帰り……」

「……ただいま…」

僕達は、互いに潤んだ瞳でみつめあい…肩を並べて家に向かった。