其れから数日。
隊士長として何度か巡察に行ったが、大した事は何も起こらなかった。
其れもその筈。
まず組長がいて、伍長もいる。
更に、二隊合同で行うのだから必ず一人組長はいる。
だから、隊士長はほぼ必要無いのだ。
「紅河さーん。巡察行きますよ」
「はい。今行きます」
まあ今まで京に済んでいても、外には滅多に出なかったから、色々見られて良いのだけど。
「紅河さん。巡察はどうですか?」
「仕事には慣れたか?」
今日の巡察は一番隊と三番隊。
沖田さんと斎藤さんの隊だ。
「そうですね。特にこれと言ったことも無いので、何とも言えませんが」
「ははっ。確かに。組長も伍長もいますからね」
「ふむ。まだ斬り合いには、遭遇していないのだろう?」
「はい」
「其れは良いことだな。俺達の出る幕は少ない方が良い。それだけ平和と言うことなのだから」
平和、と紅河は口の中で呟いた。
本当に平和なのだろうか。
一見、平和そうに見えてその中では、数多の闇が渦巻いている。
そんな表面上だけの平和を、果たして平和と呼んで良いのだろうか。
「……紅河さん?」
「え?」
「どうしました?何か考えている様でしたが?」
「あぁ、大した事ではありませんよ」
紅河はやんわりと笑みを浮かべる。
それ以上、心の内に入られないように。
「そうですか」
彼女の拒絶を感じたようで、沖田もそれ以上言わなかった。
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「珍しいこともあるんですね、一さん」
沖田が団子を食べながら言う。
珍しいこと、其れは真面目な斎藤が巡察帰りに、甘味屋に寄ろうと言ったことだった。
「偶には良いだろう?」
自ら言い出したくせに、斎藤は茶しか飲んでいない。
「そうですけど。一さん甘味好きじゃないですし、私が甘味屋に寄ろうって言っても行かしてくれないじゃないですか」
「当たり前だろう」
じゃあ、今日は良いのか。
沖田の目が据わる。
「へーえ。一さん、随分と紅河さんには甘いんですね」
そう。
言い出したのは斎藤だが、その元となったのは紅河。
話の中で、紅河が甘味が好きだと言ったのが原因。
其れで、斎藤が甘味屋に寄ろうと言い出したのだ。
「総司は甘やかすな、と副長命令が出ている」
「土方さんがそんなことを。後で少し、御礼をしてあげないといけませんね」
沖田は笑っている。
が、目は笑っていない。
彼は黒い笑みを浮かべながら、どんな御礼をするか考えた。
「斎藤さん。ありがとうございます」
ゆっくりと団子を食べながら、紅河は嬉しそうに、斎藤に礼を言った。
勿論、沖田が言っていた御礼とは全く正反対のものだ。
そんな紅河の様子に、斎藤も微かに笑う。
「美味いか?」
「はい。とても」
一本食べて満足した紅河。
今だに黒い笑みを浮かべている沖田に言う
「そんな顔で甘味を食べては、折角の味が勿体無いですよ」