「傀儡の血を持つ者が、この国の帝である限り、いずれこの国は破滅する」
莵毬は、紅河に視線を落とす。
ふっ、と瞳が優しい色に変わった。
「だが、それは他の国でも変わりない。永遠に続く国などない」
国が、廃れようとも、活きようとも。
莵毬は、特に気に止めない。
気にする必要など、ないから。
けれど、それが紅河に関わると言うなら、話は違う。
「俺は、とうの昔に“生きて”いることを辞めた。意志がある、傀儡に過ぎない。だが、こいつは違う」
紅河が、意識を保てなかったのは、本能的な恐れだ。
まだ、完全に闇に染まりきっていないが故に起こる、恐れ。
それを、莵毬は愛しく思う。
そして、その無垢なところを守りたかった。
その為に、己がどんなに穢れようとも。
失いたくなかったから。
たった一つの、光。
暗闇の底にいても、届くその光を。
白いままで、いさせたかった。
「紅河は、光だ。一筋の………俺の」
最早、絶望すらない闇の中でも。
苦しみならも、それでも生きてこられたのは。
たった一筋の光があったからだ。
莵毬が何よりも紅河を守るのは。
誰の為でもない。
ただ、自分の為。
一番に自分を頼り、真っ直ぐに向けてくる、その眼差しが欲しいが為。
そう、それは浅ましい我欲だ。
それでも、莵毬はわかっていてなほ、紅河を欲する。
浅ましいなど百も承知。
それが紅河を苦しめているなど、とうに知っている。
それでも。
それでも。
己のしていることに、悩みながらも。
もう、我欲を貫き通す覚悟は出来たから。
「だから俺は、紅河を傷つける者は赦さない」
例え、この国の王であろうと。


