主上はぽつんと呟く。
そして、笑いだした。
狂ったように、狂っていくように。
「余が、心のない人形を望むじゃと?今更、何を言う。天皇とは、帝とは、体の良い操り人形ではないか」
狂った嗤い声が木霊する。
ケタケタと、嗤う。
嗤う、嗤う、嗤う。
これが、この国の真の姿。
生き神と、現人神と仰がれるその姿。
狂気は、ゆっくりと浸食してくる。
外へ、外へと這出てくる。
ぞわり、と紅河の背筋が粟立つ。
余りにもおぞましい、その闇に。
紅河はよろめいた。
全身から生気が奪われていく。
暗闇で嗤う帝は、確かに神だった。
この国を蝕む、悪神その物だった。
奈落の底を見た気がした。
「哀れじゃの。そちも余も。皇の血を引くものは、皆哀れ」
「どんなに貴かろうと。所詮は傀儡の血よ」
そこは、負の感情一色で染まっていた。
醜い、負の感情に、心の奥底が共鳴する。
自らも、それに呑まれそうになった時。
「紅河」
切ないほどに、澄んだ声が。
紅河を呼んだ。
それは、闇を切り裂き。
優しく紅河を包む。
背後から伸びてきた手が、紅河の耳を塞ぐ。
無音の世界。
紅河は自ら、瞳を閉じた。
これ以上、見てられなかった。
もたれるようにして、背を預ければ。
しっかりと支えてくれる。
すっと気を失った紅河を抱いて、莵毬は剣呑な光を宿す。


