呆然と呟く山崎を、紅河は冷たい目で見下ろした。

「自分の殺気に呑まれて、目的まで見失ったか。情けない」

ぴくっと山崎の背が震える。

暫くその背を見て、溜息を付くと怪我をしていない方の手を差し伸べた。

「え?」

驚いて目をを開く山崎を、強引に引っ張って立たせる。

一瞬耳元に顔を寄せ、囁いた。

「莵毬(つかさ)を傷つけなくて良かった」

聞き返す暇も無く、紅河は身を翻す。

道場の入り口で見学していた土方達は、驚いて固まっていた。

「最後の技、なんなんですか。あれ」

「強いんだな、お前」

「二人とも凄かったぜ」

「……手合わせを願いたいな」

わいわいと声を掛けてくるのには目もくれず、紅河は正面に仁王立ちする土方を見上げた。

「………」

「強さは、申し分ない。後は近藤さんと話し合って決める。部屋で待ってろ」

「……わかった」

「怪我は、大丈夫なのか」

今だに、血は止まっていない。

暫く傷を見ると、肩を竦めた。

「問題はないな。それより山崎の方にいった方がいいのでは?」

「あぁ」

すれ違いざま、紅河は土方の肩を叩いた。

止めてくれて、感謝する。

土方はそんな声が聞こえた気がした。

土方の声が聞こえなければ、確実に自分は山崎を殺していた。

はっと紅河をみれば、彼女の横顔はとても穏やかで美しかった。

それも、一瞬。

元の顔に戻ると、優雅でそれでいて隙のない足取りで歩いて行った。