18歳の春。高校を卒業した私は、声優、歌、舞台など、表現者としての基礎を学ぶため、とある専門学校に入学した。

この学校には、多くの学科があり、その一つが、わたしのかよう声優学科だ。他にも、サウンドクリエイト学科や、アニメーション学科なんかもあり、コラボレーションが盛んなようだ。
声優学科には、クラスがAからCの3クラスに別れている。
私は、Aクラスになった。

最初の一週間は、自己紹介ばかりだった。
この学科では、最初の授業で必ずニックネームをつけ、お互いをそれで呼びあう、という奇妙な取り決めがあった。
例えば、自分の好きなアニメのキャラクター名だったり、昨日やったスポーツ、出身地の名産品、好きな食べ物…、ニックネームをつけにくいときは、立ち方が似てるから、と、いうだけでとある絵本のキャラクターにされた人もいた。

私の場合、変な羞恥心が働き、少年漫画について熱く語るのが躊躇われた為に、誰もがしっている有名な映画のキャラクターを上げ、結局そのまま『こころちゃん』になった。
ちなみに、たまたま昨日のテレビでやってたのを思い出して言っただけである。

変なあだなじゃないから、まぁいいか。

自分への注目が無くなったことに一安心して、順番どおり、隣に座っている女子に視線をむけた。


このAクラスには、比較的目立つ二人組がいた。一人は、『さかけん』こと、坂下健斗。お調子者で、頭の回転が早く、人懐っこい。一人一人に挨拶してまわっている。
ちなみに、さかけんには別のあだ名があったが、あまりにも馴染まず、一週間で消滅した。

そして、もうひとり。彼の名前は笹山良平。ひょろっとした体からだからは想像つかないような渋い声をもっている。いわゆる、イケボである。
彼の趣味は声まね――つまり、アニメの声優さんの演技をまねることーーで、一番真似ることが多い声優さんの名前から、『小松』というあだ名がついている(笹山くんは小松さん本人への罪悪感で、呼ばれなれるまでに時間がかかった)。

この二人との出会いが、私の人生を大きくかえることになるとは、この時は思いもしなかった。