母親はヒステリック気味に語気を荒くし、父親は無関心とばかりに口を噤む。まともに話を聞くことが出来たのは息子の優真だけだった。


 少々、いやかなり、峰村斗真という少年が憐れに思えてくる。彼はきっと"不良"の二文字で片付けていいような人間ではなかったはずだ。


 そんな斗真と親しくしていた数少ない人物が
天城兄妹、川瀬奈々、
杉崎琥太郎の4名。


 彼女達に出逢ってから斗真はよく笑うようになった、と優真は言っていた。感謝こそすれ、恨みなどしないと。


 彼が嘘を言っているとは思えなかった。それに雪姫から聞いた内容から察するに、一年前の事故は決して人為的なものではない。


──過去と事件が、繋がらない。


 正直捜査が行き詰まっている、と言わざるを得なかった。


 晴流の事情聴取兼護衛として鷺沼を置き、目撃者捜しと前科者洗いを他の同僚が行っている。


 そして鳩山に任されたのは峰村斗真関連のこと。今すべきことは、何か。


「…仕方がない。ちょっとばかり遠出するか。」


 静かに席を立ち、鳩山は警察署を後にした。


一年前の事故をもう一度、調べ直す為に。