─8月1日─



 鳩山刑事は報告書作成の為に珍しくデスクワークをしていた。


 炎天下で目撃者捜しに奮闘している同僚達に比べれば遥かに快適な環境ではあったがしかし、彼の頭を悩ませるものは決してなくならない。


 一つは天城雪姫の単独行動。そしてもう一つは事件の鍵となるだろう、峰村斗真のことである。


 天城晴流を恨む人物など全く見つからないというのに、峰村斗真という少年は叩けば叩く程埃が出た。


 喧嘩に明け暮れる日々。学校側から呼び出されることはしょっちゅうで、停学を言い渡されたこともある。警察に補導された回数も片手では足りない。


 絵に描いたような不良の彼に親は何をしているのかと思えば、何もしていなかった。


 峰村斗真には優秀な兄・優真がいる。両親は優真にだけ偏った愛情を注いでいたのだ。


──ひねくれるはずだよなぁ…。


 実際に先日、峰村家を訪れた。その際に母親が発した言葉には耳を疑ったものだ。


『…あの子は、死んでからも私達に迷惑を掛けるのね…っ!』