「…どうかしましたか。」


 受話器越しでも分かる昨日とはまた違う重みを含んだ雪姫の声。鳩山は慎重に先を促した。


『刑事さん達は…琥太郎や奈々、斗真の家族を疑ってるんですよね。』


「…」


 捜査状況は洩らせない。けれど嘘を吐いたところで簡単に見破られる気がして、迂闊に喋れない。


 その無言を肯定と受け取ったのか、雪姫は言葉を続ける。


『斗真と親しかった人達を疑うのが当然だと思います。けど、わたしは彼らを信じてるから。だから…』


 数秒の間を置いて、雪姫は決意を伝えた。


『わたしは、別の方向から犯人を捜します。』


 予想外の言葉に鳩山は目を見開く。


──何、バカなことを…


 彼女は自分が何を言っているか分かっているのだろうか。


「…雪姫さん。悪いことは言わない。我々に任せてもらえませんか。」


 身内の事とは言え、一般人が首を突っ込むべきではない。鳩山は何とかして説得しようと試みる。


 しかし雪姫は一転、明るい声色で切り返した。


「わたし、自他共に認める頑固者ですからっ」