「やっぱり、警察には言った方がいいよね。他の子達が被害に会う前に。」


「…そうだな。」


 さっきから雪姫を気遣いながらも晴流はどこか違うところを見ている。眉間に皺を寄せて、何かを抑え込むように。


「…ねぇ、晴流。」


「うん?…っ痛!」


 その皺を伸ばすように、雪姫は晴流の眉間を人差し指で突いた。


「言っとくけどっ、ただの偶然だからね。一人で走って帰ろうとしたのも、通り魔に遭ったのも。だから…」


 今度は両手で晴流の顔を挟んだ。頬を引っ張って無理矢理口角を上げる。


「自分を責めないで。笑って!」


 たった今奈々に言われたことだけど。関係ないことで誰かの表情が曇るのはやはり嫌だ。


 ニカッと笑ってみせた雪姫に釣られて、晴流もふっと微笑んだ。数時間ぶりだというのに、酷く懐かしい笑顔だった。


「………あ。」


「ん、どうしたの?」


 急に思い出したような晴流の表情。いったいどうしたというのか。


「…醤油と葱、買い忘れてた。」


──ああ、そう言えば。朝おかあさんに頼まれてたような…。