ひとひらの雪





 本格的に降り出した雨。記憶に深く刻み込まれた酷く不快なその音に導かれるように、意識は急速に呼び覚まされた。


「……ぅ…っ」


 辺りを見渡そうとした途端、後頭部に走る鈍痛。その痛みが数時間前の記憶を蘇らせる。

      ...
──そうか。あいつを見つけたと思ったら、後ろから殴られて…。


 縛られた手足を何とか動かしながら状況を確認する。見たところマンションの一室のようだ。家具などは一切無く殺風景ではあるが。


 いったい何故こんなところに閉じ込められているのか、考えていた時だった。


「──ああ、起きたんだ。」


 不意に聞こえた声に視線を向ける。部屋の入口には薄く笑みを浮かべた同年代の少年が立っていた。


「初めましてだね、天城晴流くん。気分はどう?腹部の傷も随分楽になったでしょ。」


 言われてハッとした。窓から飛び降り着地した衝撃で開いていた傷がきちんと手当てされている。痛みも大分マシになった。


 晴流は不信感を露わにし、キッと相手を睨みつける。


「…殺さないどころか手当てまでして、こんな所に閉じ込めて、いったいどういうつもりだ──茨木湊人。」