雪姫は自分より大柄な琥太郎を何とか立たせ、店員の案内の元店の裏手へと向かう。


「手伝うよ。」


 そう言って手を貸した湊人は、雪姫には聞こえないように琥太郎の耳元でそっと囁いた。















「──…今度は逃げるなよ。」















「……ぁ…っ」


 瞬間、辛うじて保っていた琥太郎の意識はフラッシュバックする過去の記憶に完全に押し潰された。


「…琥太郎?琥太郎!」


 真っ暗に閉じていく意識の中で琥太郎は自分の名を呼ぶ雪姫の声をぼんやりと聞く。


──ああ…言わなきゃいけないのに。雪姫ちゃんに、7年前のこと…。















僕が湊人くんに、殺されかけたことを。















 今思えば晴流の事件は全ての悲劇の序章でしかなかった。


 気づかなかったんだ。いつの間にか開いていたわたし達の古傷が、忘れ去ろうとしていた過去が、こんなにも巨大な闇を生み出していたなんて。


──気づいた時には、もう引き返せなかった…。