「涼子、聞こえなかったからもう一回!」

「な、何も言ってないよ?空耳じゃないの?」

もうほとんど走ってると言っていいスピードで涼子は逃げる。

「言わないなら捕まえてここでキスするよ?」

「なっ、何言ってるの?!バカなこと言わないで!」

俺の言葉にギョッとしながら振り返るがそれでも足は止まらない。

「嘘だと思う?じゃあ本気出すよ」

「ひっ!嘘でしょ・・・?!」

驚愕する涼子に不敵な笑みを見せたのを合図に俺は走り出した。
真っ赤になっていた涼子の顔が一気に青ざめていく。

「きゃーーーっ!!嘘でしょおっ?!」

「俺はもう嘘つかないって言っただろ!今止まってもう一回言うのと捕まってキスされるのどっちがいいんだ?!」

「きゃーきゃー!!」


人混みの中をまるで子どものように走り回る。
我ながら何やってんだって自覚はある。
それでも楽しくて、幸せすぎてたまらない。




こんな俺たちがもうすぐ家族になる。



それは夢なんかじゃなく、紛れもない幸福な現実。





【fin】