幸せな気分に浸っていた時、
「おね…………真雪?」
後ろから連絡もつかない私の…
「真弘(まひろ)?」
弟が立っていた。
「ごめん、連絡出来なくて…
その……待った?」
「ううん、全然。
それより、これ忘れ物。」
「さんきゅ。」
私はお母さんに頼まれていたお弁当をサッと手渡して、
泰誠くんの方へ向き直った。
変なの。
いつもだったら"おねぇちゃん"って呼ぶのにな。
それに真弘は一度泰誠くんの名前を呼んで、
「…あ、真雪。
明日映画でも行かない?」
「うん?いいよ?」
突然映画を観に行こうと言い出した。
真弘がなにをしたいのか、
さっぱり理解できなかったけど泰誠くんの表情はどこか寂しげで、見ていて辛くなる。
ねぇ、泰誠くん。
今なにを思ってるの?
様子がおかしい彼が気になって声を掛けてみたけど、
「たいせーい!」
いつも2駅目を過ぎたところで乗車してくる…
彼の大切な人が名前を呼ぶ。
そして
「ひろな?どうした?」
彼は私を見ることなく、
大切な人だけを視界に入れた。
それだけで私の心臓は…心は…
爆破寸前。
例えようのない痛みが、
私を悲しみへと追いやる。
鼻の奥もつんと痛くなって……
俯いていないと涙があふれでて来そうだ。
そんな私を見かねた弟の真弘は、
「…そろそろ真雪帰れよ。」
「うん。そうする。」
助け船を出してくれた。
だから私は一度だけ彼を見て、
そこから、
逃げるように立ち去った。
「………っう。」
途端に溢れる熱い涙。
彼と知り合えて幸せを味わって、
それとともに絶望を味わった。
だけど、
そんな簡単に諦められないよ。
大切な人が居るのはわかってる。
実ることもない恋だってわかってる。
だけど、
もう少し好きで居させてください。