「あ…あの……泰誠く」
「たいせーい!」
真雪ちゃんが声を発したとき、
後ろから俺を呼ぶひろなの姿があった。
少しだけ痛みが和らいだのは、
この苦しい空間から抜け出せる…そう思ったからだ。
「ひろな?どうした?」
「コーチが……ってあの子!」
ひろなは私服を着ている真雪ちゃんを一目見ただけで、
彼女に気が付いた。
だけど
真雪ちゃんは少しだけ悲しい表情を浮かべて…
俯いていた。
「…そろそろ真雪帰れよ。」
「うん。そうする。」
真雪ちゃんはそう言うと、
一度だけ潤んだ目で俺を見て、
頭を下げて走り去っていった。
残された俺に、
「泣かせるんなら近寄らねぇでくれる?」
陸上部のエースは怒りを込めて、理解できない言葉を残していった。
泣かせる?
俺が?
頭のなかで彼の言葉がリピートされて、
くらくらする。
「…あの子、陸上部の佐原くんと付き合ってたんだね…。」
「……うん。」
諦めなくちゃ。
なのに、諦められない俺は…
未練がましい男になってしまうのかな?
ねぇ、
キミに大切な人が居てもいいよ。
いいからさ、
俺はそれでもキミが好きなんだ。


