掴まれただけで、振り向かされたり、振り向いたりはしなかった。
顔と心の準備が必要。
気付けば横腹の痛さは消えていた。
「…帰ろう」
哲の声が聞こえる。振り向いて頷く。
あ、帰る場所、あるんだ。
哲が帰ろうって言ってくれる所に、あたしは帰ることが出来るんだ。
腕を掴んでいた手と手を繋ぐ。
十年以上一緒にいるのに、繋いだのは初めてだった。
ふと、我に返ってその手を取り返そうとするけれど、ぎゅっと握られて哲がこちらを見る。
「だ、って、南雲さんに悪い…」
「何で南雲? お前南雲と付き合ってんの?」
「え? 南雲さんと付き合ってるのは哲でしょう?」



