グレープフルーツを食べなさい

「飲まないんですか、先輩」

「飲むけど……」

 ここで酔っ払ったりしたら上村の思う壺だ。

 涼しい顔でチーズをつまむ上村を盗み見ながら、私は、苦手なワインを舌先で舐めた。

 テーブルの上には、見た目もカラフルで美味しそうなアンティパストが並んでいる。

 いつもなら喜んで口にするのに、今日は何故か箸が進まない。

 きっと私、まだ動揺してるんだ。

「あの……本当に大丈夫かな、さっきの人。こんな時間だし、一人にしたら危ないんじゃないかな」

「ああ、ほっといていいです。もう俺には関係ないし」

「関係ないって……付き合ってるんじゃないの? 彼女、泣いてたじゃない」

 上村はグラスを傾けて一気にワインを飲み干すと、ボトルを手に取り再びグラスにワインを注いだ。