「一人で、よく乗り切りましたね」

「……そうね。おかげでずいぶん厚かましくなったわ」

 後輩に慰められるのがなんだか嫌で、私はわざと茶化して答えた。

「寿退社を撤回するなんて前代未聞だって散々言われたわ。でも、ちょうど私の結婚がダメになった頃、母が病気だってわかったの。だから社内でどんなに心無い言葉を掛けられても、皆に嫌われても、私はここを辞めるわけにはいかなかった」

「病気……ですか」

 私が母のことを口にした途端、上村は口元に手を当て黙り込んでしまった。どうしたんだろう? 明らかに、様子がおかしい。