――気づかれていた。

 母が亡くなってすぐは、母がもういないことが信じられなくて。……なんだか嘘のようで、しばらくぼんやりとしていた。

 通夜や葬儀のときは、やらなければいけないこと、決めなくてはいけないことがたくさんあって、とにかくそれに追われていた。

 私は母の死を実感する間もなく、気がつけば全てが終わっていた。

 本当は今このときも、悪い夢を見ていたような気がしている。

 元気だった頃の母がひょっこりと姿を現して、『香奈』と笑いかけてくれるような気がしてならない。

「……泣かないってことは、もう大丈夫ってことですよ、岩井田さん」


『私は大丈夫』

 ちぐはぐな心とはうらはらに、こうして今日も私は、自分の心に暗示をかける。