「母さん!!」

 乱れた息を整える間もなく、病室に駆け込んだ。

 母はもう顔に色もなく、酸素マスクをつけていても苦しくてたまらないようだった。

「ご家族の方ですか? どうぞ、こちらに」

 ずっと母を担当してくれていた看護師に肩を抱かれ、母の元へと歩み寄る。膝をついて母の顔を覗き込み、力なく置かれた手を取ってそっと握り締めた。

「母さん私、香奈よ。お願い目を開けて」

 両手で握り締めた母の手を額に寄せ、きつく目を閉じた。

「母さん、今日はクリスマスイブよ。今年は私一人でケーキ作ってみたの。一緒に食べよう……」

 いくら私が語りかけても、母が目を開ける気配はない。溢れる涙で、母の顔が歪んで見えた。

 ……泣いてちゃダメだ。ちゃんと自分一人で向き合うって決めたじゃない。

 溢れる涙を止めようと、歯を食いしばり自分で自分を叱咤する。震える手のひらで涙を拭いて、顔を上げた。もう一度、母に呼びかけてみる。


 「母さん、お願いだから……目を開けて!!」