グレープフルーツを食べなさい

「前に約束したでしょう。覚えているかな?」

「覚えてます」

「そう、よかった」

 信号停止の車の中、岩井田さんは私に向かって微笑んだ。

 忙しなくワイパーが左右に動くフロントガラス越しに、信号の青が滲む。岩井田さんはギアを入れ替えながら話し続けた。

「あの蔵を改装したカフェ、完成したんだ。クリスマスイブにはオープンだよ」

「クリスマスイブに? ……ロマンティックですね」

「思っていたよりも工期が短くすんだらしくて、友人がサプライズでクリスマスツリーを作ったんだ。それを見せたくて」

 デパートのパーキングに車を停め、そこからまた岩井田さんの傘に入れてもらいカフェを目指した。

「ほらあそこ、ツリーの電飾が見えてる」

 一歩ずつ細い路地を進んでいくと、建物の合間に七色に光輝くクリスマスツリーが見えた。二階建てのカフェより少し低いくらいの、立派なクリスマスツリーだ。