グレープフルーツを食べなさい

 子供の頃から、クリスマスは母と一緒にケーキを手作りした。

 よくばって18センチホールのケーキを焼いてしまって、「もうムリ!」なんて文句を言いながら、母と二人で三日間くらい食べ続けた。今では懐かしい思い出だ。

 今年は私がケーキを手作りして持っていこうか。どうせなら、フルーツがいっぱい載ったケーキにしよう。苺にオレンジ、キウイフルーツ、母の好きな黄色い方の桃、そして酸っぱいグレープフルーツ。

 ……一口だけでも、食べてくれたら。

「ダメじゃないか。傘もささずに」

 考え事に夢中になって、雪が降り出したことにも気づいてなかった。いつの間にか私は大きな黒い傘の中にいて、隣には岩井田さんが立っていた。

「そこに車停めてるから、行こう」

 肩を引き寄せられ、二人傘の中で寄り添うようにして歩いていく。

「……三谷さん?」

「ごめんなさい、大丈夫です」

 そうやって大丈夫と自分に暗示をかけて、苦しいときはやり過ごすんだ。今までだってそうやってきた。

 一粒だけ零れた涙を、岩井田さんは見ないふりしてくれた。