「え? なに?」

「先輩を見てると、なんだかわざと人を遠ざけてるみたいな気がして。まあ、中山だけは例外みたいだけど」

 上村は顔をこちらに向けると、その目で私を捉えた。

「まるで何かを忘れるために仕事ばっかしてるみたい」

 上村の言葉が容赦なく胸に突き刺さる。

 返す言葉を思いつかなくて、私は不機嫌さを隠すこともなくそのまま押し黙った。


 響子の部屋の前でタクシーを降りると、私はとりあえず上村に会計を頼み、響子をタクシーから下ろした。

 上村と二人で響子を支え、なんとか無事に部屋へと送り届けた。

 響子の部屋をロックして、部屋の鍵を玄関ドアの新聞受けに入れておく。

「ごめん上村。タクシー代、私が払うから……」

 マンションのエントランスを出ると、先ほどのタクシーはなぜかまだ停まったままだった。