グレープフルーツを食べなさい

「鍵を、返して欲しいの」

 私の声に、ほんの一瞬上村が瞠目したような気がした。でもすぐにいつもの無表情に戻っていて、きっと窓から差し込む西日のせいだと思う。

「けじめをつけないといけないって思うのよね。上村も誠実であるべきでしょう?」

 どうしても麻倉さんの名前を出したくなくて、遠まわしな言い方しかできなかった。上村は相変らず無表情のままで、どう思っているのかもわからない。

「だから――」

「今は持っていません」

「……そう。じゃあ、捨ててくれて構わないから。引き止めてごめん」

 それだけ言うと、私は上村の顔も見ずに再び階段を引き返した。上村が追いかけてくる気配はない。

 これでいいんだ。……私は大丈夫。

 何度も何度も呪文のように繰り返して、階段を駆け上った。