グレープフルーツを食べなさい

「母さん、ずっと起きたままで平気?」

 もうずいぶん長い間、母はベッドヘッドにもたれて窓の外を眺めている。

「そうね、ちょっと疲れたかな」

 ベッドに横になるのを手伝おうと、母の小さな背中に手を添えた。すっかり痩せてしまった母の背中に触れると、言いようのない悲しさが込み上げる。

 たまらず私は、薄く骨の浮き出た母の背中をそっと抱きしめた。

「なあに突然」

「ん……、昔はよくこうしてたなあって」

 フッと母が微笑んだ気配がした。

「香奈は意地っ張りだから、こうやって私の背中で泣いて絶対に泣き顔を見せなかったわよね」

「そうだったかな。そんなこと、もう覚えてないわ」

 ずっと気を張って生きてきた私は、泣くことなんてずっと忘れていた。

 ――そう、上村に会うまでは。

 私の心を弱くするのは、母と上村だけだ。

「香奈の好きなようにしていいのよ。心の赴くままに生きなさい。それが私の望み」

 そう言うと、母はまるで電池が切れたようにすっと眠りに落ちた。

 安らかな母の寝顔を見つめながら、私はその言葉を噛みしめていた。