グレープフルーツを食べなさい

「香奈はどうなの、最近」

「どうって……何が?」

「そうねえ、仕事とか色々」

「相変らず忙しいよ。でももうちょっとで山は越えそうかな」

「上村さんも忙しいの? 色々お話したいこともあったんだけど、当分は無理かしらねえ」

 母は今でも私と上村のことを、結婚を約束した仲だと思っている。

「うーん、忙しいんじゃないかなあ」

「香奈ったら、そんな他人事みたいな言い方して。なあに、上村さんとケンカでもしたの?」

「ケンカなんて、私たちはしないよ」

 恋人同士のケンカなら、仲直りすることができる。

 だけど私たちは、元々ケンカをするような仲でもなかったのだ。

 母に上村とのことを全部洗いざらいぶちまけてしまえたら。母はきっとまた私を優しく抱きしめてくれるだろう。

 でもきっと、私が楽になった分、母が心を重くする。母は私を一人残していくことを悔やんでしまうだろう。

 母を支えて、その苦しみを和らげてあげたいのに、母の前では私の心はいつまでたっても子供の頃のままだ。

 今だって母の胸に縋りつき、思う様泣きたいと思ってる。不甲斐ない自分に嫌気が差す。