グレープフルーツを食べなさい

 出口まであと5メートルというところで、不意に体から響子の重さが消えた。

 地面に私でも響子でもないシルエットがぼんやり浮かんでいる。

「中山、飲んだ後も相変らずだなあ」

 後ろを振り向くと、背の高い上村が私を見下ろしていた。

「えっ、上村? 二次会に行ったんじゃなかったの?」

「よろよろ歩く二人が見えたんで、こっそり抜けてきました。先輩一人じゃ大変でしょう?」

「そんな。今日は上村の歓迎会でもあるのに……」

「もうみんな出来上がってるし、抜けたって構わないでしょう。俺が手伝います」
                                   
 正直言って上村の申し出は有難かった。

 響子はもう私の声掛けにも応じない。自分で動けないほど酔うなんて、もうちょっと考えて飲んでくれたらいいのに。

 アーケード街を抜けると、やはりタクシーはすぐに捕まった。