グレープフルーツを食べなさい

 響子が一次会で潰れちゃうのは毎度のことだし、私たちのことなんていつも誰も気にも止めないのに、気がついて声をかけてくれるなんて。

 研修初日、緊張して私に質問もできなかった人と同じ人物だとは思えないわ。

 たった二週間の研修だったけど、岸くんの成長ぶりを目の当たりにして、私は嬉しくなった。

「二次会、カラオケに行く人はこっちでーす」

 店の前で張り切って大声を上げている美奈子の姿が見える。その隣には上村の姿。美奈子は上村のスーツの裾をしっかり握っている。

 そのまま二次会へ向かう一団を見送って、私はふうっと息を吐いて気合を入れ直した。

「さ、帰るよ響子」

 気を抜けば座り込みそうになる響子の体を引き上げながら、アーケード街を歩く。

 大通りまで出れば、きっとすぐにタクシーが捕まるはず。私は心の中で自分を励ましながら、アーケード街の出口を目指した。