グレープフルーツを食べなさい

「それで岩井田さん、私に何か御用ですか?」

 コピーし終えた紙の束を作業台の上で揃えながら、私は岩井田さんに尋ねた。

「なんだかつれないセリフだなあ」

「だって、岩井田さんの『口説く』は私の場合、仕事限定でしょう?」

「そんなこともないんだけどな……」

 岩井田さんはファイルを片手に頭を掻いている。そんな姿に、ついまた私は吹き出してしまう。

「今日はホントに仕事じゃないよ。たまには三谷さんと飲みに行きたいなーと思っただけ」

「えっ、そうなんですか?」

 少し、迷う。岩井田さんと飲み、と言ったらまた例の話になるだろう。

 独立の話は、母のことを理由に何度かやんわりと断っているけれど、岩井田さんはなかなかしつこかった。こうやって相手を不快にさせずに食い下がるところ、さすが営業だなと思う。