グレープフルーツを食べなさい

「昔からそうなの。仕事が忙しいお義兄さんに代わって姉を助けて、弟……直人(ナオト)っていうんだけど、その面倒も見て、子供らしいわがまま言ってるとこも見たことない。見兼ねて私も『それで疲れないの?』って聞いたことあるんだけど、あの子『別に』としか言わないのよ。絶対に自分の感情を表に出さないの」

「それは……そうですね、今でも同じです」

 少しの感情も覗かせずに、口癖のようにそういう上村が脳裏に浮かぶ。私だって、これまで何回も上村の口からその言葉を聞いた。その度に上村の本心が見えなくて苦しくなる。

「四年前姉が亡くなったときもそう。病院から姉が危篤だって連絡があった日、達哉は今の会社の最終面接があって、病院よりまずそっちに向かったの。面接はうまくいったらしいけど、結局姉の最期に間に合わなくて。
姉もお義兄さんも達哉にはとても期待してたから、たぶん達哉は少しでも早く就職を決めて姉を安心させたかったんでしょうけど……葬儀の席で、母親より自分の就職を優先させたことを直人に散々責められたの。親族の前で『兄さんは冷たい』って詰られても、あの子一言も言い返さなかった」