グレープフルーツを食べなさい

 金曜日、いつものように定時で仕事を終え、母の病院を訪れた。

 夕方の閑散とした待合室を通り抜け、さらに建物の奥へと進む。中庭に面した渡り廊下を抜け、回りをたくさんの木々に囲まれた静かな場所に、母がいるホスピス棟がある。

 ナースセンターの看護師たちに挨拶をし、受付で面会記録に名前と入室時間を書き込んでいると誰かに後から声をかけられた。

「すみません。あなた……上村 達哉のことご存知ですよね?」

 振り向くと、私のすぐ後ろに薄いピンク色のナース服を着た看護師の女性が立っていた。見覚えがあるような気もするけれど、咄嗟に名前が浮かばない。

「はい……あの、失礼ですがどちらさまですか」

「突然申し訳ありません。私、達哉の叔母の土井 祥子と申します」