グレープフルーツを食べなさい

 急に触れられて、心臓が音を立てた。赤面した私が睨みつけても、上村は何食わぬ顔でリビングに戻っていく。

 ……からかってるつもり? 冗談じゃない。

 動揺しているのを誤魔化したくて、必死で話題を探した。そういえば私、昨日の電話のことを確認していなかった。上村は私が残したメモに気付いてくれただろうか。

「ねえ上村、昨日のメモ見てくれた?」

「なんのことですか?」

「私が受けた電話のメモがデスクに置いてあったでしょう。確か……土井さんって女性からだった」

「……ああ」

「ちゃんとコールバックしてくれた?」

「忘れてた」

 上村の返事がやけに素っ気無い。今までこの部屋にかすかに漂っていた淡く甘い空気が、上村の一言で一気に消え去った気がした。

「仕事関係じゃないの? あ、ひょっとして私が連絡先を聞きそびれたから……」