グレープフルーツを食べなさい

 翌日の土曜日は、午前中に母を見舞い、午後は家でゆっくりと過ごした。

 何をしていても頭の中を岩井田さんの言葉が回っていて、結局手を止めて考え込んでしまう。それで私は、週末に残していた家事も持ち帰った仕事も止めて珈琲を淹れ、リビングのソファーに座り一人でよく考えてみることにした。

 実際岩井田さんの話には、とても惹かれるものがあった。今まで裏方ばかりしてきた私が、あんなふうに率直に、しかも名指しで求められたことなんて今まで一度もなかったから。

 岩井田さんに応える自分を想像してみるけれど……最後にはどうしても母の顔が頭を過ぎる。

 新しい仕事を始めれば、慣れるまではきっとそっちにかかりきりになってしまう。しかも岩井田さんは、私にこれまでのようなサポート的な仕事だけを求めてるわけじゃない。小さな会社だから、一人ひとりに与えられる仕事量だって、今の比じゃないだろう。

 だからといって、母のことは決しておざなりにはできない。母との時間をこれ以上削るわけにはいかないし、私もそんなことはしたくない。