グレープフルーツを食べなさい

 上村は指先でそっといたわるように私の頬に触れた。零れる涙を、親指で一粒ずつ拭っていく。

「触ら……ないで」

 溢れる涙はそのままに、逃れるように上村から体を反らせた。

「後悔してるんですか?」

 上村は再び私への距離を詰め、もう一度私の頬に触れた。優しく触れる指先に、つい手を伸ばしたくなる。

「後悔は……していない。ただ情けないの」

 一度閉じた目蓋を、今度は大きく見開いた。瞬間私の世界は上村でいっぱいになる。

「私は、母が望むようには生きられない……」

 一生をかけて愛せる人と出逢い、結ばれ、温かな家庭を築く。

 いつの間にかそんな未来を、自分から手放していた。