グレープフルーツを食べなさい

「それって、どういうこと?」

 上村は私から顔を背け、肩を掴んでいた手を放した。急に体から上村の熱を失い、途端に私は心細くなる。

「……俺のことはいいんです。今は先輩のことでしょう」

 一瞬、上村と私の間が暗幕で遮られたような気がした。

 今この瞬間、上村は私に心を閉ざした。私は自分でも気付かないうちに、上村の踏み込んではいけない場所に踏み込もうとしていたんだろうか。

 まるで私の注意を自分から逸らすように、上村は強い口調で話し続けた。

「お母さんに不安を抱えさせたままでいいんですか? 嘘をつけば、確かにこの先先輩は苦しむでしょう。でも少なくともお母さんは、これ以上苦しまずにすむ。お母さんに未練を残させてはダメです」

「そう……そうだよね」

 私の返事に、上村は静かに頷いた。

 そうだ、私がこの先苦しむのは構わない。でも、母さんには憂いを抱えたままでいて欲しくない。

「わかったわ。私を助けて、上村」

 私は上村を一人車内に残し、マンションのエントランスに駆け込んだ。