グレープフルーツを食べなさい

「良くないでしょ。どうして先輩はしんどい時にちゃんとしんどいって言えないの?」

 ショーウィンドー越しに上村と目が合う。真剣な表情に思わず私から目を逸らした。

「上村はちゃんと気づいて心配してくれてたのよね。ごめんなさい」

 会社のみんなにはまだ言ってないけれど、上村だけは母の病気のことを知っている。だから、上村が私の不調に気付いてくれたことも、今日の『約束』も、ただ私のことが心配だっただけだ。何も特別な意味はない。

 勘違いして溢れ出そうになる感情を押さえ込もうと、私は口をつぐんだ。

「別に、謝って欲しいわけじゃない」

 上村はそういうと、私から顔を背け、来た時のように私を置いて歩き出す。

 私と一緒に歩きたくないのなら、初めから約束なんてしなければいいのに。どうしてそこで機嫌が悪くなるのか、私にはわからなかった。

 たまに気まぐれのように優しくされると、胸が苦しくなる。

 私は零れそうになるため息を封じ込め、重い足取りで上村の背中を追った。