グレープフルーツを食べなさい

 繁華街への入り口近くにあるコインパーキングに車を停めると、上村は人通りの多い交差点の方に向かって歩き出した。

「ねえ、いったいどこに行くの?」

 スクランブルの交差点は大勢の人々で溢れていた。上村とはぐれてしまわないように、私は彼の背中を必死で追いかけた。

 上村は歩くのが早くてなかなか追いつけない。後ろにいる私のことを振り返りもしない。

 今日の上村はなんか変だ。いつもなら、素の時でも私に気を遣ってくれるのに。

 私を構わない上村のことが、却って不自然に思えた。

「飯、おごります」

 交差点を渡りきりアーケード街に入ったところで、ようやく上村が口を開いた。それでもやはり上村は前を向いたままで、私の顔を見ようとしない。

「どうしたの、急に」

「いつもの家飯のお礼」

 そう言うと上村は歩くスピードを上げ、また私との距離を開く。

 ひょっとして、照れてるとか? いや、あの上村に限ってまさかね。

 結局私はレストランに着くまでの間、一度も上村の表情を確かめることができなかった。