グレープフルーツを食べなさい

「用意できました?」

「まあ、一応」

 母の病院から部屋へ戻り一時間くらいたった頃、玄関のドアをコツコツと叩く音がした。

 上村相手にうだうだ悩んでも仕方がない。そう思った私は、結局無難にワンピースを選んだ。白地に黒の小花柄がプリントされた、シンプルなデザインのものだ。

 マンションの前に停めてあった上村の車に二人して乗り込む。車窓から、週末の街を行き交うたくさんの人々が見えた。

「先輩もそういう格好するんですね」

 信号待ちで車が停まった隙に、上村が私をちらりと横目で盗み見た。

「上村がどこに連れてくのか教えてくれないから。こういうのが一番無難でしょう?」

「はは、それはすみません。でもよく似合ってますよ、可愛いです」

「……そんなこと言っても何にも出ないわよ」

「何だ、言って損した」

 軽口を叩く上村を軽く睨む。別に私だって上村の言葉を本気にしているわけじゃない。いつの間にか私も、上村とのこういうテンポのいい言葉のやり取りを楽しめるようになっていた。

 上村はこうやって少しずつ私の心の中に入り込んでくる。そして私はそのことを心地良く感じている。

 それはもう私自身、認めざるを得ないことだった。