グレープフルーツを食べなさい

「出かけるって、一体どんな格好してったらいいんだか」

 窓越しの強い日差しに目を細めて、ぼそりと呟いた。

 上村と『約束』した土曜日。空調がほどよく効いた病室内とサッシ一枚で隔てたベランダ越しに、空高く昇る入道雲が見える。今日も暑くなりそうだ。

 こんな猛暑日に、上村は私をどこに連れて行くつもりなんだろう。炎天下の中わざわざ出て行くのも、なんだか億劫だ。

「なあに、ため息なんかついて」

 ベッドに横たわる母を振り向くと、顔だけ僅かにこちらに向けて私に微笑んでいた。母の弱々しい表情に胸が痛む。私は芽生えた不安を打ち消すように、わざとおどけた声を出した。

「それがさ、午後から用事があって出かけなきゃいけないんだけど、暑いしもう面倒くさくって」

「そうなの? でもその割に嬉しそうに見えるわ」

「え? 誰が」

「香奈が。そんなこと言って、本当はデートなんじゃないの?」

「そ、そんなわけないじゃない! ちょっと後輩に付き合うだけよ!!」

 慌てて両手を振る私を見て、母はふふっと微笑んだ。