グレープフルーツを食べなさい

「上村、鍵を……」

「先輩」

 意を決して放とうとした言葉は、上村に遮られた。

「な、何?」

「今度の土曜日空いてますか?」

「土曜日なら空いてるけど……」

「よかった。昼ごろ部屋に行くから、出かける用意をして待っててください」

 一体どうしたんだろう? 今まで上村は私の部屋に来るばかりで、外へ出かけようなんて言ったことない。

「出かけるってどこへ?」

「秘密」

 そう言うと、上村は悪戯を企んでいる子どものような顔で微笑んでみせた。

「何それ。秘密って子供じゃないんだから――」

「約束ですよ。それじゃ、ごちそうさまでした」

 そして、あっという間に私の前から消えてしまう。

「あ、ちょっと。上村!」

 一刻も早く鍵を取り返さなきゃと思うのに、結局いつも上村にかわされてしまう。

 このままじゃいつまでたっても上村から離れられない。そのことに、私はだんだんと焦りを感じるようになっていた。